水分がとれれば点滴は不要

 同様に、医学的には必ずしも必要のない点滴も行われてきました。風邪がよくなる点滴は存在しません。通常の点滴に含まれている成分は、大ざっぱに言えば水と砂糖と塩です。のどの痛みが強かったり、吐き気がしたりして水も飲めないという状態でもなければ、普通に口から水分を摂取すればいいのです。普通の風邪では水も飲めない状態にはまずならないので、風邪に点滴は不要です。

 点滴が終わるまでの数十分間は、医療機関に滞在しなければなりませんが、その間に他の患者さんから別のウイルスをうつされたら本末転倒です。抗菌薬も点滴も、大昔の医師が行ってきた「患者サービス」の名残に過ぎないと思います。

 抗菌薬や点滴の必要がなく、対症療法しかできないのなら、風邪で医療機関に受診する必要があるのか疑問に思われるかもしれません。実際、風邪であれば自然に治るので受診の必要はありません。ごく軽い症状しかないのに受診するのは、新たな感染症にかかるリスクを考えると得策とはいえません。

風邪で病院を受診する目安

 風邪で受診は必要ないといっても、問題は風邪のような症状だけれども風邪ではない重篤な疾患が紛れていることです。臨床医にとって風邪の診療とは、こうした紛れ込んだ他の疾患を見つけ出すことだといっても過言ではありません。

 もちろんのことですが、患者さん自身は風邪かどうかわからないこともあるでしょうし、症状がつらいときや心配なときは、いつでも受診していただいて大丈夫です。ただ、一定の目安はあったほうがいいでしょう。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、呼吸困難、呼吸数増加、脱水、4日間以上続く発熱、改善の兆候が見られないまま10日間以上続く症状、発熱や咳などの症状の再燃や悪化、慢性疾患の悪化を挙げています(※7)。いずれも普通の風邪ではないことを示唆しているのです。

 最後に、風邪の予防や治療に効果があるとされる方法はたくさんありますが、これさえやれば大丈夫といった方法はありません。抗菌薬のような潜在的な害の大きなものでなければ、個人の好みで選んでよいでしょう。そして風邪をひいたら、ゆっくり休むことが大切です。自分のためのみならず、他の人に風邪ウイルスをうつさないようにすることにも役立ちます。多少の風邪症状があっても無理をして働くのが美徳といった考え方は、新型コロナの流行後はもはや過去のものに過ぎなくなりました。風邪でつらい時は、ぜひ休んでくださいね。

※7 CDC“Antibiotic Use―Common Cold”

(名取宏(なとり・ひろむ):内科医)