「30代くらいの女性で意欲の低下や言葉が出てこない、思ったことが言えないといった症状があり、メンタルクリニックを受診し、抗うつ薬などさまざまな薬を服用したようなのですが、よくならない。1年くらい経ったある日、意識を失い、救急搬送されてきて、MRI検査をしたところ『悪性神経膠腫(こうしゅ)』が見つかり、緊急手術をしました。脳腫瘍が精神面に影響を及ぼしたり、認知機能の低下、性格の変化などを引き起こしたりすることもあるので、要注意です」

 脳腫瘍自体は頻度が高い病気ではないので、必ずしも定期的に検査をする必要はありません。

「脳に関連するような症状がある場合、あるいは40~50代で一度も脳のMRI検査を受けたことがないという人は、一度受けるといいと思います」

代表的な脳腫瘍四つの特徴とは?

神経膠腫:うつ病に似た症状が出ることもある、悪性腫瘍

 脳腫瘍にはさまざまな種類がありますが、悪性脳腫瘍の代表が神経膠腫です。腫瘍ができた場所によって症状はさまざまですが、まひや、うつ病に似た症状が出ることもあります。脳内の神経細胞の間を埋めている神経膠細胞からできる腫瘍で、脳内に広がって増殖していきます。このため正常な細胞と腫瘍のある細胞の見分けがつきにくく、手術で腫瘍だけを摘出するのは困難で再発が多いのが特徴です。再発を予防するために、放射線治療や抗がん剤治療も組み合わせます。

髄膜腫:運動まひや感覚障害の症状が出ることも

 良性脳腫瘍の代表が、「髄膜腫」「下垂体腺腫」「神経鞘腫」です。最も多い髄膜腫は、脳を包んでいる髄膜にできる腫瘍で、ほとんどは良性ですがまれに悪性のこともあります。小さいうちは症状がありませんが、大きくなると運動まひや感覚障害が表れることがあります。治療をする場合は手術が基本となります。

下垂体腺腫:顔や腹部が太ったような症状が表れる

 下垂体腺腫はホルモンの分泌をコントロールしている下垂体に腫瘍ができます。ホルモンを過剰に分泌するタイプとしないタイプがあり、成長ホルモンを過剰に分泌するタイプは、手足の先端や額、あご、唇、舌などが肥大します。プロラクチンを分泌するタイプは、月経不順や性機能障害などの症状が出やすく、副腎皮質刺激ホルモンを分泌するタイプは、顔が丸くなり胸や腹部が太るといった症状が出ることがあります。

 また、下垂体は視神経の下にあるため、視力や視野障害が出ることもあります。治療の基本は手術ですが、プロラクチンを産生するタイプは、薬物療法が有効です。手術は近年、鼻から内視鏡を挿入して腫瘍を切除する経鼻内視鏡手術が主流になっています。

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脳腫瘍は偶然見つかることがほとんど