WBCで見事、優勝を手にした侍ジャパン。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修さんは、その喜びを明かす。
* * *
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンが2009年の第2回大会以来の世界一を手にした。大谷翔平がエンゼルスの同僚のマイク・トラウトを空振り三振に切って優勝を決めた瞬間は、長く語り継がれるだろう。何より、楽しそうに野球をやっていることが画面を通じて伝わってきた。
栗山英樹監督が「野球ってすげぇな」と準決勝後に話したが、野球って楽しい、こんなに面白いと思ってくれた人も多かったのではないか。まずは日本チームに携わった全ての方々にお疲れさま、ありがとうと伝えたい。
米国の主砲、トラウトが「全ての野球ファンが見たがっていた対戦。最高に楽しんだ。他の終わり方があったと思う?」と話し、マーク・デローサ監督は「WBCは本物。今夜は野球界の勝利だ」と評した。各国のメジャーリーガーが参加し、日本では対戦国の対応もクローズアップされた。ただ勝った、負けたの結果だけ見られていたものが、その国の野球の向き合い方にまで焦点が当たった。普段は野球を見ない人も巻き込み、それぞれの見方で楽しんでもらえた。それが何よりうれしい。
ダルビッシュ有が八回に投げて、九回は大谷。所属球団はよく許可したと思う。2人ともチームに戻ればエースだし、大谷はすでに開幕投手に指名されている。そんな2人が決勝で投げたいと自ら言い、チームとも交渉したのだと思う。これが並の選手であれば、認められはしない。2人が築いてきたチームとの信頼関係が、一番難しい八回と九回の六つのアウトをとる力となった。
大谷が決勝戦を前にした声出しで、「トラウトがいて、ベッツがいたり。誰しもが聞いた選手がいるが、僕らはトップになるために来た。今日一日だけは彼らへの憧れは捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」と言った。戸郷翔征(巨人)や高橋宏斗(中日)といった若い投手が、スーパースターに臆せず腕を振り、ガッツポーズを作った。よそいきの投球をした投手など誰もいない。ダルビッシュが宮崎合宿当初に行った、全員が自分の力を発揮できるリラックスした環境を作るといったことは、決勝の大一番でしっかり体現されていた。