「新耐震基準もすでに43年が経過し建物の老朽化は進んでいます。2000年基準に合わせた新しい耐震改修をすれば、木造住宅のほとんどが一部損壊か準半壊以下で収まります。津波や火災が起きても家から逃げ出せるので、助かる可能性は高くなります」
どうすれば、耐震化を進めることができるのか。
防災アドバイザーの岡本さんは、「被災後に新築するより、事前に耐震改修する方が格段に出費を抑えられることを社会の認識にする必要がある」と説く。工務店などでつくる「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合」(木耐協)によると、耐震化にかかる費用は平均167万円。だが、11年の東日本大震災で自宅が全壊した人が新築した際にかかった費用の平均は約2500万円だったという。
「被災後に手を打つ場合は、ケタ違いに莫大な出費となります。事前に耐震改修して備えておく方が、被災した時、スムーズな生活再建につなげることができます」(岡本さん)
耐震化をためらう人に岡本さんは、「まず自宅の耐震診断を受けてほしい」と話す。
「耐震診断を受ければ、『このような揺れが来た時にこの方向に倒壊しやすい』『家の中でこの部屋が比較的安全』など、自宅の特徴を教えてもらえます。診断に必要な費用の一部を補助する自治体もあり、耐震診断を受けるだけでも地震の揺れが来た時にどう行動すれば安全を確保できるか少しでも分かります」
寝室だけでも補強する
先の長尾客員教授は、「住宅の一部だけ補強するのも効果がある」と語る。
「寝室だけでも補強したり、寝床の上をフレームで覆う防災ベッドを置いたりして、家屋が倒壊しても寝室だけでも守れるようにすれば、命を守る上でも意味があります」
前出の中林名誉教授は木造住宅の耐震化について、「従来の耐震化ではいけない」と指摘し、「高齢者が古い住宅に住み続ける中、福祉と耐震改修の支援を一本化する福祉防災支援を進めていく必要がある」と説く。
「例えば、お風呂の改修や車いすで玄関まで移動できる住まいのバリアフリーに併せて、耐震化もする。そうした高齢者に優しく地震にも強い家づくりなら、別々の工事より改修費も大幅に節約できます」
その際、行政の支援が不可欠だが国は縦割り意識が強く、一本化は難しい。そこで知事会や市長会など各自治体の長が先頭に立ち、国に働き掛けるとともに独自にも取り組むことが必要だという。その上で、今回の地震を教訓に、「親子で実家の耐震化を考えてほしい」と語る。
「いま高齢の親は地方にいて、子どもたちは都会で暮らすケースが多くあります。しかし親は高齢になり実家の耐震補強が経済的に苦しいので、子どもが耐震費用の一部を出して改修したり、建て替えたりする場合は新しい住宅の何割かは子ども持ち分にするなどです」
そうすれば親を守れる上に、首都直下地震や南海トラフ地震で被災した時、親元に家族を安心して避難させることもできる、と中林名誉教授。
「そうした家族ぐるみの耐震化をぜひ考えてほしい。それへの新しい行政支援も重要です」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年1月22日号