能登半島地震の発生後、SNS上にはさまざまな虚偽情報が氾濫した。なぜこうした投稿が繰り返されるのか、その背景を探った。AERA 2024年1月22日号より。
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自宅アパートが倒壊し、生き埋めになった男性が頼ったのはSNSだった。
〈生き埋め助けて〉
〈妻だけでも〉
アパートの住所とともに、X(旧Twitter)にそう投稿した。電波状況が悪く、何度も送信を繰り返したという。
男性が住む石川県輪島市は、震度6強を記録。119番もつながらず、被災状況を伝えられるのはSNSだけだった。
悲痛なつぶやきは瞬時に拡散され、Xには安否を心配する声があふれた。男性の居場所を知らせる電話を消防署にかけたという人もいた。
地震発生から約2時間後、男性は消防署員によって救出される。だが、SNSを見た人の通報ではなく、同じアパートに住む同僚が消防署員を呼びに行ったことがきっかけだった。
「消防は大規模火災を優先していたので、救助は後回しでした。ですが、同僚がいなければ、SNSの通報で翌日くらいには助かったかと思います」
と男性は振り返る。
ただ、後から現場でガスが漏れていたことが判明。一刻を争う事態だった。何より、死と隣り合わせの状況でSOSの声が届いたことは、希望にもなった。
虚偽の「#救助要請」
1日に発生した能登半島地震では、Xを中心に救助要請の投稿が相次いだ。男性のようにわらにもすがる思いで助けを求める被災者がいた一方、「#助けて」「#救助要請」などのハッシュタグを用いて、架空の住所を含む投稿をするアカウントもあった。岸田文雄首相が「被害状況などについての悪質な虚偽情報の流布は決して許されない」と述べるなど、デマ情報が救助活動に支障をきたしていた。
「被災していない人が虚偽の救助要請をするのは、これまでにないタイプのデマです」
そう話すのは、防災・危機管理サービスを提供する「Spectee(スペクティ)」代表の村上建治郎さんだ。今まさに助けを求めている人がいると知れば、投稿を見かけた人は誰かに届けなければという思いに駆られ、拡散してしまう。能登半島地震では、その心理をついたデマが流布していった。