松本人志さん

 時代の感覚や社会の空気を敏感に反映し、社会とは切り離せないお笑い。「M-1」の隆盛などでいまや大人気のお笑い界は、今後どうなるのか。AERA 2024年1月22日号より。

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「笑いのカリスマ」とも言われ、お笑い界に大きな影響力を持つ松本人志さんが活動休止を発表。そのニュースは大きな衝撃をもって受け止められた。

象徴であり権威

 女性芸人へのインタビューなどをまとめた『女芸人の壁』(文藝春秋)の著書があるライターの西澤千央さんはこう語る。

「お笑い界は流行り廃りがあって移り変わりが早い中、松本さんはあまりにも長い間トップに君臨し続けてしまった。権力者的な振る舞いを客観的に見て恥ずかしいという感覚が笑いには必要なのに、周囲から祭り上げられて神輿に乗り続けてしまったのではないでしょうか」

 松本さんは1982年に相方の浜田雅功さんとコンビ結成、吉本興業の養成所であるNSC大阪校1期生であり、師匠をもたない芸人として新しい笑いを代表する存在だった。

 エンターテインメントの世界に詳しいライター、編集者の九龍ジョーさんはこう語る。

「『M-1』や『キングオブコント』のような大会が可能になったのは、ダウンタウンがお笑い芸人の地位を上げ、競技人口を増やしたという背景があります。松本人志はイチ審査員ではなく、象徴であり、権威でもある。勝敗とは別に『松本さんにジャッジされたい』というモチベーションの芸人も少なくない。松本人志は、いまだ現役でお笑い界のルールブックとなっています」

試行錯誤する若手芸人

 一方西澤さんは、本来笑いというのは柔軟で多様性があるものなのに、今のお笑い界では「松本人志」がゴールポストとして固定されてしまっているという矛盾があると指摘する。

「芸人とは『感覚のアスリート』。笑いという非常に繊細なものを扱う彼らは、どこまでが笑えてどこからが笑えないのか、時代の感覚や社会の空気を敏感に察知して笑いにしていきます。観客の感覚はアップデートされてきていて、差別的な笑いやルッキズム的ないじりはもはや受け入れられません。そこに対応している芸人とそうでない芸人の差が開きつつある。この『変われなさ』というのは日本の政治と同じで、松本さんというトップが長年君臨し続けたことによる弊害は確かにあると思います」(西澤さん)

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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