八ケ岳に中村キース・ヘリング美術館(山梨県北杜市)を開館、本展にも多くのヘリング作品を提供している同館館長の中村和男さん(77)も、出張でたびたび訪れた80年代のニューヨークで、初めて彼の作品に出会い、「漫画のような作風で、何かを訴えてくる」ヘリングの作品にすっかり魅せられた。
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彼の声は今も生きている
製薬会社で新薬の開発に関わっていた中村さんはやがて独立し、医薬品開発を支援する会社を設立。その作品を1点、2点と購入するうち、約300点の作品からなるアジア屈指のキース・ヘリングコレクションに育てていった。07年には美術館を設立し、今年は18年目となる。
「彼の作品に出会った当時、作品が訴えてきたメッセージは、今も色あせない。それどころか戦争やLGBTQなど、むしろ以前より身近なテーマとして胸に迫ってくる。彼の声は今も生きているんですね」(中村さん)
同展の音声ガイドでは、こんなヘリングの言葉も紹介された。
「アートの意味はアーティストのものじゃなくて、見る人が感じるもの。ある意味、鑑賞者もアーティストなんだ」
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ナレーションを担当した磯村さんも、これがもっとも心に残った言葉だと言う。
「余白を最後は観客に委ねていくという感覚が、ものすごく共感できたんですよね。自分の今やっている役者という仕事も、例えば映画館で上映して、もちろんそこにはお客さまがいて、見てくださって、最終的にその作品が完成するのだと思っていますから」
そんな磯村さんがヘリングの作品に出会ったきっかけを紹介しよう。答えは「大学の美術の授業で使った教科書」で。
「人型のモチーフがガッと集まっているような作品だったんですけど、ものすごい衝撃を受けた。ヘリングの絵って、二次元なのにまるで動いているように見えるとき、ありますよね。そのタッチのおもしろさにすっかりやられました」
シンプルなモチーフが
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へリング美術館蔵)の展示の前で(撮影/写真映像部・上田泰世)
ヘリングの作品は、目に入ってくる情報がとてもシンプル。記号のようにも見える無駄をそぎ落としたモチーフが、まるで「脳裏に焼き付くように」染みこんでいったという。
「あ、俺この絵、何だか好きだわとなって、そこからキース・ヘリングにハマっていったという感じですね」
ヘリングがシンプルな線で描いた、赤ちゃんや犬のモチーフは、誰もが一度は目にしたことがあるはず。
「でもその生涯を知っている人はそう多くはないですよね。ぜひ彼の生涯についても、みんなに知ってほしいと思いました」
そう磯村さんも言うように、知らなかったキース・ヘリングに出会える展覧会。キースがもっと好きになる。(ライター・福光恵)
※「キース・へリング展 アートをストリートへ」は2月25日まで森アーツセンターギャラリー(東京・六本木ヒルズ森タワー52階)で開催。その後、神戸、福岡、名古屋、静岡、水戸に巡回。詳細はhttps://kh2023-25.exhibit.jp/
All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
※AERA 2024年1月15日号
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