明るくポップなアートで世界中を魅了したキース・へリングの展覧会が東京・六本木ヒルズで開かれている。へリングの大ファンだという俳優の磯村勇斗さんと会場を歩いた。AERA 2024年1月15日号より。
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「人生が、より楽しくなった気はします。いろいろ仕事を重ねてきて、自分の中でもちょっとずつ余裕みたいなものができてきた、というのもあるかもしれない」
2月25日まで東京・六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されている「キース・ヘリング展」。その東京展スペシャルサポーターで音声ガイドも務めている俳優の磯村勇斗さん(31)は、自身についてそう話す。ヘリングが1990年、エイズでこの世を去ったのと同じ年。ヘリングの心境をこう考えている。
「絶望を感じつつ、死を受け入れていたのだろうし、だからこそ自分の命がなくなるまで絵を描き続けたいっていう強い思いがあったんだと思います。そして亡くなる直前、みんなが知っている光り輝く赤ん坊のモチーフを、ビビッドカラーで描いたポップな作品を残した。すごくカッコいい。そしてシビれる。憧れの存在です」
自身でもメッセージ性のある絵を描いていることでも知られる磯村さんは、以前からキース・ヘリングの大ファン。その出会いを話してもらう前に、まずはヘリングが生きた31年間についておさらいしておこう。
アートを大衆に開放
キース・ヘリングは1958年、米国ペンシルベニア州で生まれた。80年頃からはニューヨークの地下鉄の広告板に貼られた黒い紙に、白いチョークで描いたストリートアートで知られるようになる。画家のアンディ・ウォーホルなど、当時のニューヨークのカルチャーシーンのスターたちと交流を深めながら、ポップアートを代表するアーティストのひとりとなった。
美術館で背筋を正して鑑賞するものだったアートを、大衆のために開放したポップアート。ヘリングも通行人が観客になるストリートアートから始まり、ポスターやTシャツなど、さまざまなグッズに自身の作品をのせて世界中に拡散させていく。
やがて、ひたすら明るくポップな作品に込めたとされたのが社会的問題へのメッセージだ。核やアパルトヘイト(人種隔離政策)、エイズ、LGBTQなどをテーマに、世界大戦が終わり、豊かさに満ちたように見えた現代をむしばんでいた暗い影を、シンプルな画風に忍ばせた。