「ハブられたイケてるやつがワンランク下の僕らと弁当食べる」(「身も蓋もない歌」の項)
 強烈な短歌に出会ったとたん、人に教えたくなるのはなぜだろう。当代きっての人気歌人が、近現代の著名人や平成の高校生らによる、拡散させたくなるような短歌作品を一冊に編んだ。
「コップとパックの歌」「花的身体感覚」「ハイテンションな歌」など、選歌の切り口は多彩。斎藤茂吉や与謝野晶子はさすが、あちこちに登場する。大家の間に新聞の投稿作が並び、著者が“ななめ上”からの解説を添える。
 まさに31文字の小宇宙。奔放な改行、不規則なリズム、五七五七七の定型を無視した破調のたくらみが、丁寧に解き明かされる。引用作と著者が手を入れた〈改悪例〉とを比較する、ワークショップさながらの試みが楽しい。痛切に感じるのは、定型詩であるはずの短歌という表現が持つ、あふれんばかりの自由さである。
 メジャーな短歌の間違い探しあり、現代作品のメーキング秘話あり。ちょっと気になっていた人なら一首作ってみたくなる、格好の入門書でもある。

週刊朝日 2015年7月31日号