立山良司(たてやま・りょうじ)/1947年生まれ。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)職員などを歴任。専門は現代中東政治

再び「別のハマス」が

 そもそも、戦争を始めてみたもののイスラエルには「ハマスを壊滅できたとして、ガザをどうするのか」というプランは何もないわけです。ガザをずっと占領することはできないでしょう。かといってハマスを完全に殲滅することも不可能です。

 ハマスのガザ地区の指導者であるシンワルを殺害し、徹底的に打撃を与えることには成功しても、10年もたてばまた「別のハマス」は必ず、出てきます。イスラエルはハマスに対し、草が伸びると刈り取る、つまり少し大きくなれば叩いておくという「草刈り戦略」で対応してきましたが、同じような戦略にまた戻る可能性がいちばん高いのかもしれません。そうなると、イスラエルにとってのガザ問題は未来もずっと続くわけです。

 私はガザ問題を本当の意味で解決するのであれば、その第一歩として「ハマスときちんと話すこと」が大切だと考えます。

 ハマスが2006年のパレスチナ自治区の総選挙で第1党になって以来、日本を含めた国際社会は「テロ組織だから」という理由で、ノーコンタクトポリシーを取りました。孤立したハマスはガザから対立するファタハを追い出して、実効支配を始めたという経緯があります。ガザの当事者はハマスであることは明らかで、問題を解決するならハマスと話し合いをするしかないわけです。

 2017年にハマスが作った文書には、2国家解決案を受け入れることを示唆する内容も入っています。ハマスの中も、イデオロギー的に完全に一枚岩というわけではありません。

 ハマスのテロは非難すべき。ただ、ハマスの中のさまざまな人たちと話をしたからといって、テロに屈することにはならないでしょう。日本も、「もっとハマスと話すべきだ」と国際社会に主張すべきではないでしょうか。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年1月1-8日合併号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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