掛布雅之(かけふ・まさゆき)/1955年新潟県生まれ。2018年撮影

 59年ぶりに関西に本拠を置くチーム同士の対戦となった2023年の日本シリーズは、史上まれに見る激闘になった。1985年の阪神を日本一に導いたミスタータイガース、掛布雅之さんがインタビューに応じ、一進一退の手に汗握る攻防が続く「関西決戦」について語った。

【写真】掛布雅之が「日本シリーズで最も自信をつけた」と評する阪神選手

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 今年の阪神の強さの秘密としてクローズアップされたのが四球の数だ。シーズン前、岡田彰布監督がフロントに四球の査定を上げるように要請し、選手に四球を重視する意識が芽生えた。岡田監督の2歳上で、日頃は「オカ」「カケさん」と呼び合う間柄の掛布さんは言う。

「日本一になったチームのようにホームランを量産できる打線でないことは岡田監督も就任前からわかっていました。打ち勝つ野球を目指さず、ボールの見極めを大切にしたいと考えたのでしょう。相手投手の球数を増やし、中盤以降に攻略できるようなチームにしたかったのだと思います」

 四球の数は4番大山がリーグトップの99個(昨季59個)。リードオフマンの1番近本光司(29)が67個(同41個)、2番中野拓夢(27)が57個(同18個)と各段にアップ。チーム全体で昨年より136個多い、両リーグトップの494四球を選んだ。

「打ちたい、バットを振りたいというのは打者の本能です。フォアボールは、次の打者につなげる気持ちから生まれるもの。チームの勝利のため、後ろの調子が良ければバットを出すのを我慢しやすい。後続の調子が悪いと、自分が決めに行くとなりがちです。5番や6番だった佐藤(輝明)の打点が大山(悠輔)より多かったのは、大山のフォアボールが大きいと思います」 今季の2人の成績を比べると大山が19本塁打、78打点に対して佐藤が24本塁打、92打点でいずれも佐藤が上回る。一方で大山は4割3厘で初タイトルとなる「最高出塁率」を獲得した。掛布さんは「大山の出塁率の高さが佐藤の数字に表れている」とみる。

四球で次へつなぎ一本の打線になる

 日本一に輝いた85年、掛布さんもチームトップの94四球を選んでいる。

「僕の後ろを打つ5番岡田がキャリアハイの成績を残す状態の良さがあったので我慢できた面がありますね。一つのフォアボールや出塁がチームの得点に、ひいては岡田の打点になるという、つなぐ意識を常にもっていました」

 掛布さんが打率3割、40本塁打、108打点なのに対し、3番バースが打率3割5分、54本塁打、134打点で三冠王。5番岡田はバースと最後まで首位打者を争い、打率3割4分2厘、35本塁打、101打点をたたき出している。

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岡田を生かすために気をつけたこと