
岩手、宮城、福島の被災3県で開催されていた「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」の後継として新たにスタートしたプロジェクト「わっかフェス」。第1回は「民俗芸能」の宝庫、秋田で開催された。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。
【写真】「合唱団アヒル会」代表の中山希実さんと、同会メンバーの入江遥さん
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ヤッァ~トセ
ヨイワナ
セッチャ──
3月9日、秋田市の「あきた芸術劇場ミルハス」で開催された「わっかフェス」(主催・三菱商事、朝日新聞社、AAB秋田朝日放送)。秋田県南部の羽後町(うごまち)に伝わる伝統芸能「西馬音内(にしもない)の盆踊り」の豪快なこのお囃子(はやし)と、優雅で流れるような情緒ある踊りに、会場を埋め尽くした約2千人の観客は、酔いしれた。
「できる限り頑張ってきて、できることをやれたと思います」
ステージの後、華やかな衣装で踊った立教大学2年の中山希実さんは、弾けるような笑顔で話した。
2011年3月に起きた東日本大震災の後、三菱商事と朝日新聞社は14年から昨年まで岩手、宮城、福島の被災3県で「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」を開催してきた。その後継として、長い歴史に培われた伝統芸能の魅力を発信し地域を盛り上げていくべくスタートしたのが、このフェスだ。
■伝統は人から人へ
記念すべき第1回は、秋田竿燈まつり、西馬音内の盆踊り、根子番楽(ねっこばんがく)、なまはげ太鼓──のいずれも秋田を代表する伝統芸能4団体が参加。そこに、東京から、立教大学の伝統芸能サークル「合唱団アヒル会」のメンバー12人が加わった。

冒頭の中山さんはその一人。
東京の出身だが、もともと日本の伝統文化が好きで、高校は和楽器部で三味線を弾いていた。大学に進学しても三味線に触れたいと思い、昨年10月にアヒル会に入った。だが、コロナ禍で活動が制限される中、メンバーは次々と辞めていき一時は「廃部」の危機に。それだけに、喜びもひとしお。会の代表でもある中山さんはフェスに臨み、みんなに「楽しもうよ」と声をかけた。
西馬音内の盆踊りには、アヒル会から計8人が参加。この踊りは700年以上の歴史を持ち、岐阜県の「郡上踊り」、徳島県の「阿波踊り」とともに日本三大盆踊りの一つに数えられ、昨年11月にはユネスコ無形文化遺産にも登録された。
踊りの経験がほとんどなかった中山さんたちは、本番まで何度も秋田に足を運び、踊りを継承する踊り手たちから直接指導を受けた。踊っている様子を動画に撮り、東京に戻るとそれを何度も見たりしながら、ひたすら練習した。
「秋田に実際に来て、伝統芸能を通して皆さんとつながることができたのは、一生の思い出になりました」(中山さん)
伝統は、人から人へ手渡されていく。秋田は全国最多17件の国指定重要無形民俗文化財がある「民俗芸能」の宝庫だ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年4月3日号より抜粋