「胡蝶のめぐる季節」。写真や映像は日常で撮影されたものであり、CGを用いず制作されている。「日常の延長」は展覧会を貫くテーマでもある(撮影/篠塚ようこ)

 蜷川から宮田に「この映像いいですね、取り入れましょう」「次はこうしたところに撮影に行けたら面白いですね」と声をかけることもあったという。

「俯瞰の視点か寄りの視点か、客観か主観か、あるいは言語的か視覚的か。それぞれに強みがあり、それだけでも成立はするのですが、二つが合わさったときに何が作れるのか。可能性がわっと広がっていくのがすごく面白いなと感じました」(宮田)

 展覧会全体のコンセプトは「桃源郷」だ。チームとして初めて手がけた作品は、展覧会の後半で現れる「胡蝶のめぐる季節」だという。夢と現実の境の曖昧さを意味する荘子の「胡蝶の夢」という言葉に原点は由来する。

「背景は異なりますが、それぞれが異なる夢をみているなかで、現実に帰ってきたときに何を持ち帰るのか。自分の心象風景のなかに入っていきながら未来とどのように可能性を結ぶか、というのは今回の重要なテーマでもあります」(宮田)

唯一無二の存在感

 全11作品の順番を二人は「バンド演奏における曲順のようなもの」と表現する。「胡蝶のめぐる季節」を含め、展覧会全体の流れを作っていった。

 なかでも圧巻なのは、高さ15メートルのドーム形の空間の壁面に映像が投影される「Flashing before our eyes」だ。「空間ありきで考えていた」と蜷川が言う通り、唯一無二のスペースであり、抗えないほどの存在感がそこにはある。

「空間全体を一人の人間が一度に観ようとすることは不可能。寝転んで吸い込まれる、という感じが一番面白い」と宮田は言う。

 展覧会で最も華やかなスポットと言える「Intersecting Future 蝶の舞う景色」では、要所要所に香りの出る仕掛けも施されている。順路はあるものの、好奇心の赴くままに歩き回り、足を止め、ときに寝転び、香りに身を委ねる。観る者がいて、観る対象がある。その間に大きな隔たりがあったかつてのアート鑑賞とは大きく異なる体験だ。

 アートの役割、そして未来を二人はどのように思い描いているのだろう。宮田は言う。

「ひと言にアートと言っても、色々な解釈があると思いますが、『未来を繋げていく』というのは大事な要素だと感じています。『Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠』というタイトルにも象徴されているように、瞬間のなかで消えていくようなもののなかにも、普遍的なものがある。そこに目を向け、大切にしていくことで、未来に歩いていく人たちの背中を押していく、というのもアートの役割の一つなのではないか、と」

次のページ