私の父は、90歳を超えて初めて認知症を発症しました。三重県の片田舎にある結核病院の院長だった父は、最終的に町の老人病院の勤務医となりました。ある日、「医者だか患者だかわからなくなったので、引き取りに来てほしい」と病院から電話が入りました。家族を全く顧みない自分勝手な父でしたが、認知症になったときは、とても穏やかな好々爺となっていました。父が病院に入院した時は、同室の患者さんを指さし、「あの患者の診察をしなければならないから、カルテを持ってきなさい」と看護師さんに指示していました。そんな姿を見ながら、「ああ、親父は認知症になっても生涯現役を貫いているんだな」と密かに感心してしまったものです。
父は、腸のとても丈夫な人でした。認知症は脳に起こる病気ですが、実は、腸から始まる病気だと、腸の研究者である私は考えています。私たちの健康の源は、体の中心に位置する腸にあります。脳と腸は密接に連携し合っていて、腸が元気ならば脳の発達も促進できますし、腸の状態が悪ければ脳の老化は防げません。
先日「NHKスペシャル」というテレビ番組で、腸内細菌をバランス良く増やせば、がんや糖尿病ばかりでなく、うつ病や認知症まで予防できるという内容の放映があり、話題になりました。このほど私が朝日新聞出版から出版した『ボケる、ボケないは「腸」と「水」で決まる』という本は、腸が脳をボケさせない機序について詳しく解説しています。
そして、認知症を防ぐもう一つの重要なキーワードは「水」です。認知症の予防には、元気な腸作りをすることと同時に、水の飲み方にも注目していただきたいのです。脳の約80パーセントは水分です。脳は脂質でできていると思っている方が多いと思いますが、実際は水に支配されている臓器と言っても過言ではないでしょう。
「できることならば、ボケずに長生きしたい」そう願う私は、毎日、良質の水を1.5~2リットルくらい飲んでいます。水が不足すると人はボケやすくなるからです。
人間の体の半分以上は、水分でできています。ただし、水分量は年齢によって異なります。赤ちゃんは体重の8割以上が水分ですが、成人になると、体重の60パーセントになり、高齢になると、体重の50パーセント台まで減ってきます。体も脳とともに徐々に水分を失ってゆくというわけです。つまり、人間の一生とは、水分喪失の過程といえるのです。
水は脳機能を正常に働かせる以外にも、多くの重大な働きを担っています。生命活動の根幹を握っているのは水なのです。
水の働きは、大きく8つに大別できます。簡単に説明すれば、「新陳代謝の促進」「血液の循環促進」「覚醒」「鎮静」「入眠」「利尿・排便」「体温調整」「解毒・希釈」などの作用があります。したがって、体から水分が抜けてゆけば、必然的に生命活動が滞ってくるというわけです。
体からわずか1~2パーセントであっても水が失われれば、意識レベルが低下し、認知能力も衰えます。こうなると認知症を発症していない人であっても、頭がぼんやりして、「何かをやろう」「頑張ろう」という意欲が失われるのです。
人間の脳は、約80パーセントが水分でできているとお話ししましたが、脳の働きがこんなに水分不足に弱いのは、脳のほとんどが水だからです。
認知症を防ぐのに、最も大切なことは、脳での活性酸素の害を取り除くことです。日本医科大学の太田成男教授らは、ストレスを加えたマウスの脳の海馬には、活性酸素の影響で変性した神経細胞が蓄積していることを認めています。さらに、その変性した細胞は、水素水を飲ませることによって減少することが明らかになりました。水素水がマウスの脳細胞の変性を元に戻し、記憶力の低下を半減させたことを太田教授らは観察したのです。
水素水は強い抗酸化作用のある水です。水素水は脳の活性酸素を減少させ、脳の認知能力を回復させたというわけです。
実は、抗酸化作用を有する水は、水素水のほかにもアルカリイオン水などたくさんあります。しかし、私が最も勧めているのは磁鉄鉱や石灰岩層を長い年月をかけて通過したアルカリ性の天然水です。加熱処理や殺菌など、人の手を加えた水では抗酸化作用は、失われてしまっています。
認知症の予防には「活性酸素を抑える水を飲むこと」です。私は、「腸内細菌」と「飲料水」の研究をこれまで40年以上続けてきましたが、この二つのことは、間違いなく認知症の予防の鍵を握るものであることを確信しています。
認知症を予防するためには、「ボケないための腸づくり」を開始し、「ボケを予防するいい水」をなるべく多く飲んでいただきたいと思います。