8歳のアイトール(ソフィア・オテロ)は家族とスペイン・バスク地方にバカンスにやってきた。「ココ(坊や)」と呼ばれるのを嫌い、水着に着替えたがらないアイトールの様子に母は気づいているが、どう接していいかわからない。唯一、養蜂家の叔母だけがアイトールの苦悩を理解する──。映画「ミツバチと私」のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督に本作の見どころを聞いた。
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2018年にバスク地方で16歳のトランスジェンダーの少年が自殺するという痛ましい出来事がありました。彼は「自分と同じ悩みを抱えている人が大勢いる、その苦悩を知ってもらいたかった」と遺書を残していた。悲しいことですが彼は死をもってその目的を達成しました。彼の死はメディアで大きく取り上げられ、子どもたちが若くして性自認をし、それに悩んでいることが初めて社会の話題になったのです。私はトランスジェンダーの子どもを持つ家族の団体に取材し、本作を作りました。
8歳のアイトールは「女の子になりたい」という思いを胸に秘めています。それを自然に受け止め理解してくれるのは家族で叔母だけです。受け止め方の差がどこから生まれるのかはわかりません。祖父が絶対に受け入れない家族もいれば、祖父だけが理解したケースもありました。性格や立場などさまざまな理由があるでしょう。
バスク地方では事件のあとトランスジェンダー当事者の家族が立ち上がり、学校などで多く講演を行いました。「もしかしたら、うちの子も」と思っている人をどれだけ勇気づけたかわかりません。社会も動き、学校の授業でも取り入れられるようになりました。実は子どもの方が大人よりも受容が早いのです。「女の子でもペニスがある子がいる」など説明をすると「へー、そうなんだ」と素直に受け入れる。もちろん全部がうまくいったわけではないでしょう。でもこの映画でアイトールに秘密を打ち明けられたニコが「クラスに女性器のある男子がいるよ」というセリフは、実際にニコ役の少女が発した言葉なのです。LGBTQだけでなく男女の平等も同じです。みんなが力を合わせて協力すれば社会はよりよい方向に進むことができるのです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年12月25日号