当時、父親は仕事先で知り合った人たちに、「安田大サーカスのクロちゃんって知っていますか?」と口癖のように話をしていたらしい。ボクのことを褒めてくれる人がいると、「ありがとうございます!」と、まるで自分のことのように喜んでいたとか。
そのサイン色紙も、そうやって声をかけた人たちに配ったんだろうと思う。父親なりのひそかな普及活動のようなつもりだったんだろうね。
父親の優しさには、ほんと感謝しかない。口数は決して多い人ではなかったけど、ボクらに対する愛情は、十分過ぎるほど伝わっていた。
今回、葬儀では、ボクが喪主を務めさせてもらった。家族葬だったけど、たくさんの親戚が足を運んでくれた。最後のあいさつでは、「ボクの父親がどれだけ優しい人であったか」、それだけは悔いを残さず、しっかり伝えることができたんじゃないかなと思う。参列してくれた親族からも、父の人柄を象徴するエピソードがたくさん出てきて、ボクは、父親のことをとても誇りに思えた。
ボクの喪主をしている姿を見て、父親がどのように感じたかは分からないけど、どうか安心して、天国にいってほしいなと思う。
お父さん。
きっと、今頃、お母さんのことが心配だと思うけど、ボクと妹に安心してまかせてね。「ケンカする相手がいないから寂しい」とお母さんは少し弱音を吐いているけれど、これからは、お父さんの代わりに、ボクらがしっかり支えていこうと思っています。
今まで、ほんとうに、ありがとう。
天国で再会したら、また一緒に大好きだったパチンコ打ちに行こうね。
ボクにとって、お父さんは、憧れの存在でした。
生まれ変わっても、ボクは、またお父さんの息子になりたい。
(構成/AERA dot.編集部・岡本直也)