車内販売員時代の茂木久美子さん。家族へのお土産にできたての駅弁を買うのが一般的だった時代には、米沢名物の牛肉弁当が飛ぶように売れた(画像=本人提供)

――接客や売り方には、マニュアルがあるのですか?

 いえ、どの商品を積み込むか、どうワゴンにディスプレイするかは、販売員が自分で考えます。まずは、ワゴンにいかに多くの商品を詰め込むかがポイント。新幹線って長ひょろいので、商品を切らすと取りに行くのが大変で、時間のロスになります。

 あとは、お客さまの様子を観察することも大切ですね。今日は週末で家族連れが多いから、子どもの目線にお土産のグッズを置こうとか。電車が停車駅に着いたときは、ホームの状況を横目で追って、「サラリーマンの方がたくさん乗車されるから、今のうちに冷たいビールと牛タンを補充しよう!」なんて、臨機応変に動くこともあります。

――茂木さんが、販売員として心がけていたことは?

 お客さまに、「この新幹線に乗ってよかった」っていう思い出を提供したいなと。お金なんてかけなくても、雑談一つでいいんです。「窓の外を見ててくださいね、あ、あそこ、うちのお父さんの畑ですー!」とか(笑)。そんな他愛のないおしゃべりでも、みなさん「えー!」って爆笑してくださいました。

 私、その号車にいるお客さま全員が、元から知り合いだったかのような雰囲気にしちゃうのが得意でした。たとえば、お客さまがたくさん立っていてワゴンが通れないとき、自作の注文票を一番後ろの席の方に渡して、前に回してもらうんですよ。すると、だんだん車内に一体感が生まれて、「弁当3個だって!」「こっちはバナナ2本!」なんて、商品やお金も全部リレー形式で回してくださって。不思議なことに、クレームが来るどころかみんなニコニコして、最後は「俺、手伝ってやったぜ」みたいな、いい顔をして降りていく。まさかの参加型の新幹線です(笑)。

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乗客カップルの“キューピッド”になったことも