小川嶺(おがわ・りょう)/2018年、「Timee(タイミー)」をリリース。23年10月時点で従業員924人、累計ワーカー数600万人、累計調達額は約403億円(撮影/小山幸佑)

 社会問題への関心が強いとされるZ世代。学生時代に起業する人も少なくない。タイミー代表取締役の小川嶺さんもその一人だ。問題意識を持つだけでなく、なぜ自分がやるのか、と深く問い続ける姿勢が見えてきた。AERA 2023年12月11日号より。

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 起業を考えるようになったのは高校3年のときです。大好きだった祖父が亡くなり、初めての身内の死だったこともあって人生の時間が限りあることをはっきり実感しました。そして祖父の生い立ちを調べていると、祖父の父、つまり私の曽祖父は乳業を営む実業家だったことを知りました。福沢諭吉と二人で写った写真も残されていて、日本社会のために起業し、経営していたことがうかがえた。自分も社会に役立つ事業を起こしたいと考えるようになりました。

 立教大学に入学してからはあらゆるビジネスのアイデアを考えました。そのなかでうまくいきそうだったのがファッションのマッチングサービスです。自分自身が高校までサッカー一筋でファッションに疎かったことから、自分の写真を撮ったら似合う服をバーチャルで提案してくれて簡単におしゃれできる、というサービスを考えました。

 これは実現しなかったのですが、投資家へのプレゼンを繰り返すなかでいろいろなアドバイスをいただいて、最終的には「実際に来店して試着したら割引になる」仕組みを盛り込んだ、ファッション感度の高い女性向けのサービスとしてリリースしたんです。6人のメンバーで1年近く取り組み、事業として回り始めていました。ただ、500万円投資していただけることが決まり、契約書にサインする直前に続けることを断念しました。

日雇いバイトの経験で

 事業化を意識するあまり当初の思いからどんどん離れてしまい、「なぜ自分がやるのか」が腑(ふ)に落ちなくなっていたんです。投資を受けるということは5年、10年と情熱を持って続けなければならない。その覚悟を持てませんでした。メンバーの時間を奪ってしまったことは今でも本当に申し訳なく思っています。ただこの経験から、起業し事業を続けるうえでは「なぜ自分なのか」が想像以上に大切だと、身をもって学びました。

 タイミーのアイデアを思い付いたのは大学3年のとき。ファッション事業を断念してからは、大学で授業を受け、毎日日雇いバイトをする生活を送っていました。コンビニ、物流倉庫、引っ越し現場などいろいろなところで働きました。本当にお金がなかったから、隙間時間があったらすぐに働けて、給料もすぐにもらえるサービスが絶対に必要だと思ったんです。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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