原発事故、STAP細胞問題など、近年国内では科学不信を招く出来事が続いている。本書はこうした状況を前に、科学思想史の研究者が「科学批判学」という新たな学問領域の確立を試みたものだ。
 科学の変容はどこで起こったのか。職業としての科学者が誕生した19世紀以降の歴史を振り返り明らかになるのは、研究成果が個人主体から複数人による生産体制へと変化を遂げる中での「科学者のサラリーマン化」だ。知的分業化が進む中、研究者には計画全体のなかで自ら従事する仕事の意味が見えづらくなる。その最たるものが原爆開発計画であった。「科学批判学」はそうした危機感に誕生の契機を求めるもので、先駆者として水俣病の市民講座で名高い宇井純、政府からは距離を取り原子力研究を進めた高木仁三郎などが紹介される。たとえ少数者でも、彼らが持つ社会正義や倫理観は、本来科学が持つ公益性と重なると著者はいう。ラディカルな問いかけに満ちた領域であるからこそ、「科学批判学」の構想がお題目で終わらないことが望まれる。

週刊朝日 2015年7月3日号