2007年に時代小説家としてデビューした田牧大和氏の新刊は、江戸を舞台に俳諧師・其角と絵師・朝湖(後の英一蝶)の2人組が、吉原の闇を暴くミステリーだ。松尾芭蕉の弟子で、一門の要と言われながら、どこか居場所がない疎外感を拭い切れない其角は、豪放磊落な性分で、頭でなく心で思案し、理屈ではなく情で動く、江戸で一番の粋人で絵師の朝湖とやけに気が合った。
「屏風の犬が動いた」と言い残して、次々と姿を消していった遊女たちを救うため、奔走する其角と朝湖。田牧氏の得意とする、粋で、リズムのある会話により、物語はぐんぐん進んでいく。
 謎解きの中に、いくつもの“情”が交わり、深い余韻を残す。哀しくも美しい文章には、笑いも涙もある。
 唯一無二の親友でありながら、なれあいにならず、気持ちのいい緊張感がみなぎる2人の言葉と行動が、清々しく描かれている。読後、自分も親友とサシで呑みたくなる、そんな気持ちになる小説だ。

週刊朝日 2015年7月3日号