思考停止して頭の中で凝り固まった枠。その枠を外すためにできることは、まさに「考えること」だと、小川さんは指摘する。
枠の中で情報処理をする浅い思考ではなく、枠の外で深く考える。小川さんは、それを「哲学する」と呼ぶ。
哲学する一歩は、「これで本当にいいんだろうか」と思うこと。何が正しいのか、消費者はどう思うだろうか、さまざまな視点で考えることで相対化されるという。
「疑って視点を変えて、それを再構成する。どう思うかを言語化しましょう。注意したいのは、ペンで書き出すことです。なんとなく思ったことだけで終わらせず、言葉にして初めて考えたことになります」(小川さん)
さらに、複数の人と対話することも重要だ。「それぞれが意見を突き合わせて、意見を吟味する。多様な視点に触れて、自分も相手も納得できたとき、思考のバランスが取れます。そうして、枠を更新し続けることができると思うんです」(同)
小川さんは、「哲学カフェ」と題した対話の場を企業でも行っている。小川さんがファシリテーターを務め、扱うテーマは働き方やリーダーシップなどさまざまだ。
「これまでは職場で我慢して頑張ってお金を稼ぐ資本主義の世界でした。ですから、企業風土の問題は、軽視されていますが、このままでは足元をすくわれると思います。働きやすく、SDGsを重視した企業でないと生き残れないでしょう。米国ではGAFAが哲学者を積極的に活用しています。企業が倫理部門をもって意思決定する時代になるでしょう」
(編集部・井上有紀子/今西憲之)
※AERA 2023年12月11日号より抜粋