「作り話(作話)」も、否定せずに耳を傾ける

認知機能が衰えてくると、自分の記憶の欠けているところをごまかしたり、補ったりするために、周囲の人に「作話(さくわ:作り話)」をするようになります。
すぐにウソだとわかる作り話がほとんどですが、とにかく自分はボケていると思われたくない一心で、ちゃんとした目的があって行動しているのだと言い張ります。
あるいは、本人にウソをついているという意識はなく、記憶がないので「たぶん、こうだったんじゃないか」という想像で話をとっさに作ることもあります。
それが作話です。
【作話を否定せず聞く・Vさんの例】
昼食後に散歩に出かけて夕方になっても帰宅しなかったVさん(80歳・男性)。
奥さんと、同居する息子さん夫婦が心配して探したところ、近所のコンビニエンスストアの前のベンチに座っているVさんを発見したそうです。
「こんなところで何をしているの?」と尋ねても、Vさんは気まずそうな顔で黙った
まま何も答えません。
帰宅後の夜、「いったい何していたんだ?」と聞くと、
「いや、道に迷って困っている人がいたから、家まで送ってあげたんだ。それでちょっとコンビニの前で一休みしていたら、おまえたちが来て……」と、か細い声で言います。
息子さんは「本当かよ」「せめてスマホで連絡しろよ」とVさんを責めます。
すると、息子さんのお嫁さんがこう言ったそうです。
「お義父さん、無事に帰ってきてくれて本当によかったです。道に迷っている人を助
けてあげていたなんて思いもしませんでした。とにかく無事でよかった。今度から遅
くなるときは連絡してくださいね」
Vさんは納得したように「うん。じゃあ、もう寝るわ」と言って寝室へ行ったそうです。
作話は、ウソだとわかっても否定せずに耳を傾けることが得策です。
身近な親族が、このお嫁さんのように第三者の目線で対応することは、なかなか難しいのは事実です。
それでも、作話が見られたら、「なぜこんなウソをつくんだろう」と、まず考えてみましょう。
Vさんの場合は、「自分はボケてない」「ちゃんと覚えている」と虚勢を張りたいがために、「困っている人を助けていた」という作話をしました。
その思いを受け止め、ウソとわかっていても「そうなんだ。それはよいことをしたね」と、一言伝えるだけでも本人は納得します。