一点の曇りもない澄んだ微笑を見て、アレッサンドロの目から涙があふれました。

「マリア……ああっ、ぼくは、なんて愚かなことをしてしまったんだ! こんなぼくをゆるしてくれるというのか、マリア? どうして、こんなぼくを―!」

 アレッサンドロは、マリアの肉体が滅んでも彼女は聖女として天国で生きていることを確信し、初めて回心しました。以後、彼はマリアの母親に謝罪の手紙を獄中から送り続け、やがて恩赦で釈放された際には直接謝罪し、母親からもゆるされました。

 自分が暴行され、殺害されながらもアレッサンドロを恨まずゆるし、彼の回心を祈り続けたマリア・ゴレッティは1947年に列福され、1950年に列聖された時に彼女の母親はまだ健在で式典に出席し、その4年後に娘の待つ天国へ旅立ちました。

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清涼院流水

清涼院流水

清涼院流水(せいりょういん・りゅうすい) 1974年、兵庫県生まれ。作家。英訳者。「The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)」編集長。京都大学在学中、『コズミック』(講談社)で第2回メフィスト賞を受賞。以後、著作多数。TOEICテストで満点を5回獲得。2020年7月20日に受洗し、カトリック信徒となる。近著に『どろどろの聖書』『どろどろのキリスト教』(ともに朝日新書)など。

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