ところで外貨建て保険なら為替変動により将来の受取額は変わるはず。銀行員の加算ポイントは変化しないのか。

「為替リスクを負うのは銀行ではなく顧客のほうなので、為替変動は無視(銀行内でのポイント加算には関係ない)です」

 このセリフがすべてを表していると思った瞬間だった。なお、新NISAの口座開設に来た人に保険をセールスするケースもよくあるそうだ。

 銀行には現金の引き出しや預け入れをする窓口がある。こうした預金業務はほぼ、派遣やパートの職員が担当する。もし通帳と印鑑でお金を引き出しに来た客がNISAに興味を持っていたら「あちらのカウンターで詳しい説明をお聞きになれますよ」と、つなぐそうだ。これはマーケティングや営業の世界の用語で「トスアップ」と呼ばれる。バレーボールでトスアップといえばセッターがアタッカーに向けボールを上げることを指すが、この場合は見込み客を次につなげる意味で使う。NISAの話を聞きたい、とカウンターに座った客の前には「アタッカー」の銀行員(正社員)が現れる。派遣・パートには成約の有無にかかわらず、トスアップ1件につき3300円が入る。生々しい金額なので念押しするが、一つの地銀での話だ。

 正社員の銀行員は、入行してすぐ「研修漬け」になるという。投資信託、個人年金、変額保険などの金融商品ごとにセールスの手法を学ぶ。数週間、泊まりがけのときもある。つかみのセリフ、核心部分、クロージング(契約の最終段階)。顧客がこう言ったら、こう返しなさい──。

「金融商品のプロというよりセールスのプロの出来上がりです」

(経済ジャーナリスト・向井翔太、編集部・中島晶子)

AERA 2023年12月4日号より抜粋

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