フランス・パリのリヴォリ通りにあるサン・ジャンヌ・ダルクの黄金像(写真:Getty Images)
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 ジャンヌ・ダルクは、13歳の時、百年戦争の渦中で天使ミカエルからお告げを受け、フランス軍の最前線に立った。奇跡で軍を奮い立たせたが、イギリス軍に捕らえられ、宗教裁判で“魔女”とされ火刑に処される。清涼院流水氏の新著『どろどろの聖人伝』(朝日新書)では、キリスト教国に語り継がれている数々の聖人伝の中から、ジャンヌ・ダルクについても触れている。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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 西暦1412年頃、フランス東部の小さな農村ドンレミでジャンヌ・ダルクは生まれました。当時のフランスは、王位継承と領土問題をめぐって1337年から続いているイギリスとの百年戦争の渦中にありました。首都パリを陥落させたイギリス軍はフランス北部を制圧し、フランス軍は敗色濃厚でした。ジャンヌが13歳になったある日、天使のように白く輝く人物が庭先に現れてミカエルと名乗り、彼女に告げました。

「ジャンヌよ、イギリス軍をフランスから追い出し、王太子を王として戴冠させなさい。それが神様があなたに与えられた使命です」

 ジャンヌ自身、最初は幻覚だと思い、信じられませんでした。ですが、3年のあいだに同じお告げが何度もくり返され、彼女は、それが本当に天使ミカエルのお告げだと信じるようになります。フランスではその少し前から「武装した処女が国を救う」という預言の噂が広がっていて、ジャンヌは、それは自分のことだと確信しました。

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仏軍の最前線を突進する甲冑の少女