
そう訴え続けた大武の情熱は伝播(でんぱ)し、参加を表明する元球児が日に日に増え、思いを同じくする仲間と共に実行委員会が発足。肝心の舞台となる阪神甲子園球場に交渉した結果、オフシーズンの1日だけ使用許可が下りたことでプロジェクトは一気に前に進んだ。
開催資金は6千万円超
甲子園球場が使える1日を使って記念試合やシートノック練習などのセレモニーを行い、全国の元球児全員が“聖地”に立つ。翌日から2日間かけて、兵庫県内の他球場・グラウンドで全参加チームが1試合ずつ対戦する。多くの観客の声援の中でプレーしたいから、チケットは無料で発行する。そんなプランで、「『あの夏を取り戻せ』全国元高校球児野球大会」の開催がついに決まった。
しかしながら、元高校球児たちにはまだ重い課題が残っていた。開催のために必要な6450万円の資金集めだ。「100万円も見たことがなかったので、それを集めるのがどれほど大変か分かっていなかった」と大武は苦笑いする。
通学する武蔵野大学の会場を借りて、5月に記者会見を開き、寄付を募るクラウドファンディングの実施を発表。会見には元東京ヤクルトスワローズ監督の古田敦也も登壇し、若者の挑戦への応援を呼びかけた。もともと古田とつながりがあったわけではない。「大会実現のためならなりふり構わず、なんとかつながれる連絡先を探して一人ひとりアタックしていきました」(大武)
直球の情熱は甲子園出場経験のあるプロ野球のレジェンドたちの心を次々と動かし、その後も荒木大輔(元北海道日本ハムファイターズ2軍監督)、矢野燿大(あきひろ、前阪神タイガース監督)らが公式アンバサダーに就任。また、企業からの協賛を募るべく、SNSでつながったビジネスパーソンに直接アピールするなど、地道な呼びかけを続けていった。
夢奪われても再起可能
大武ら元高校球児らの思いに突き動かされ、企業として応援することを決めた一人が全日本空輸のCX推進室業務推進部価値創造チーム担当部長の野中利明だ。選手の移動面の支援だけでなく、同社公式SNSを使っての広報や社内向け講演で寄付協力を呼びかけるなど、大企業ならではのネットワークを生かした「共感の輪づくり」に努めたという。
「甲子園は夢の象徴。3年前に何かを諦めたり、立ち止まったりしたのは高校球児だけではなく、多くの人が辛苦を味わった。コロナ禍で非常に厳しい状況に追い込まれたのは当社も同じ。今回の大武さんらの取り組みに深く共感し、率先して応援すべきと考えた」(野中)