ほかにも、スカパーJSAT、マツモトキヨシ、ココカラファイングループなどが協力を表明し、11月1日に開いた2度目の記者会見では、総勢約700人の参加チームの代表者による公開型の「対戦組み合わせの抽選会」を実施。手作りのボードに「帝京」「クラーク国際」「近江」など、あの夏に甲子園の地に立つはずだった高校名のカードがかけられるたびに、会場からは拍手が上がった。
この日の時点で集まっていた資金は約3千万円。球場使用や備品、保険などにかかる開催費用はまかなえるものの、甲子園までの交通宿泊費など選手の負担をカバーする約3450万円は不足している状態だったが、現実味を伝える「対戦カード決定」の反響は大きかった。
悔しさに耐えた仲間
発表から2週間足らずで187人の個人、19社の法人からの支援が新たに集まり、大会開催予算の全額を達成することができた。個人支援者の中には、ヤクルト・村上宗隆に「3億円の家」を贈呈したことで知られるオープンハウスグループ社長の荒井正昭の名前も。同社は企業として全面協力も表明した。「選手の自己負担なし」という“完全開催”の実現が11月13日に発表された。
多くの大人たち、企業、社会を巻き込んで、一度失った夢を取り戻すことに成功した元高校球児たち。いよいよ当日を迎えるばかりとなり、安堵(あんど)の表情をみせる大武だが、実は自身は試合には出場しないという。所属していた城西大学附属城西高校は、3年前の東東京地区の独自大会で優勝していないからだ。しかし、ここまでの活動を通じて、“あの夏の夢”に引けを取らない宝を手に入れたのだと語った。
「僕が得たものは仲間です。3年前に同じ悔しさに耐えた全国の仲間と出会えたこと。この仲間と一緒に、これからも前に進んでいこうと思えました」
こう語る大武自身もまた、このプロジェクトを通じて成長した。その変化を見守ってきたのが、大武が所属する武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長で、寮生活も共にしてきた伊藤羊一だ。
「彼の目つきは明らかに変わりました。話す言葉にも自分の軸が生まれ、仲間に対して『絶対やり切る』『絶対に大丈夫』と呼びかける姿を何度も見た。目標を定め、一心に向かうと決めたときに、人は迷いが消え、大きく変われることを示してくれた」(伊藤)
大会は11月29日から12月1日までの3日間、阪神甲子園球場、その他の兵庫県内球場で実施予定。チケットはイベントチケット販売「Peatix」を通じて、誰でも無料で入手可能。大会の様子は、スカパー!で無料配信される。(文中敬称略)(フリーランスライター・宮本恵理子)
※AERA 2023年11月27日号