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 フリーランスライター・畠山理仁(50)。選挙取材歴25年、候補者全員を取材することを信条に選挙のおもしろさを記事にしてきた。2022年7月、畠山は参院選・東京選挙区で34人の候補者全員取材をスタートさせる。睡眠時間平均2時間。タイパもコスパも度外視な畠山を追いかけたドキュメンタリー「NO 選挙,NO LIFE」。監督の前田亜紀さんに本作の見どころを聞いた。

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 プロデュースをした「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)で政治や選挙のおもしろさに目覚めました。そんなとき畠山さんの著作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』を読んで胸が熱くなったんです。畠山さんは候補者全員を取材し、いわゆる「泡沫候補」と呼ばれる人々も取りこぼさずに伝えてきた方です。そこにはメディアが報じず、私の視点からもこぼれ落ちていた人たちの魅力的な姿がありました。それに「なぜ君」「香川1区」を手がけて「同じ党派の人にしか届いていないのでは?」という壁を感じていたんです。別の視点を持つ畠山さんの肩越しに選挙を見てみたいと取材をお願いしました。

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 まず驚いたのは、本当に寝ない、食べないこと(笑)。実際「クレイジーだな!」と思いました。それに候補者との距離の取り方です。私は取材相手とは一線を引く姿勢でしたが、畠山さんは目の前で困っている候補者にフッと手を差し伸べる。自身の政治信条に関わらず耳を傾ける。畠山さんは「応援している人」だとわかりました。候補者ひとりひとりの、大きく言えば民主主義の応援団なのだと。

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 実は映画には「なぜ全員取材をするのか?」が描かれていません。私が自然にその理由に共鳴してしまったからだと思います。畠山さんを突き動かしているものは公平性です。同じ供託金を払って立候補しているのに全員を平等に報じないのはおかしくないですか、と。

前田亜紀(監督)まえだ・あき/1976年、大分県出身。監督作に「カレーライスをーから作る」。「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」「劇場版 センキョナンデス」などをプロデュース。18日から全国順次公開(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 取材を通して肩越しに見えてきたものにゾッとすることもありました。例えばある政党の選挙戦略。有権者の多くも知らずに投票しているでしょう。畠山さんが伝えているのは「ちゃんと選挙を見てください」です。有権者がきちんと選挙に向き合うことで「にせもの」が当選しなくなるはずなのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年11月20日号