姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 イラク戦争やアフガニスタン紛争時は、ピンポイントでの戦闘員及びその施設などへの空爆が外れて民間人が亡くなるということが起こりました。あの当時、新聞を賑わした言葉の一つに「誤爆」という言葉があります。つまり、米国は誤爆という「弁明」を盾にして、実際には雨あられと空爆を繰り返してきたわけです。

 今回、イスラエル当局のスポークスマンは、民間人が亡くなったことに対して「誤爆だった」という「弁明」すら使っていません。米国がやった空爆を真似ながらも、その誤爆という「弁明」すら使わない無差別の空爆が展開されているにもかかわらず、痛痒(つうよう)を感じないのはなぜなのでしょうか。その裏側にあるのは「テロリスト」という言葉がひとり歩きしているからだと思います。

 かつてベトナム戦争時には、米国によってベトコンが「テログループ」と同じような扱いを受けました。日中戦争の時の一般民衆に紛れたゲリラの「便衣隊」も、タリバンもテロリストと同じでした。

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