――発達障害という名称の「障害」という言葉に抵抗感を抱く人も少なくありません。
最近では「発達障害」は「神経発達症」と呼ばれています。ただここで言う「障害」というのは、これまで述べてきたように「病気」というよりも「生活の場面で支障がある」ということを意味しているという理解は重要だと思います。例えば近視も視力の「障害」なわけです。ただ視力0.4の子もいれば0.1の子もいるし、眼鏡で補正しても0.01の子もいて、それぞれ程度が違います。「スペクトラムである」ということはそういう意味だと思います。状況によっては0.7であっても支障が出る場合もあるし、0.5でも許容できることもあります。
発達障害という診断をつけることだけがフォーカスされている
――グレーゾーンと診断されるお子さんは多く、「なんでもかんでも発達障害にしてしまう」という批判もあります。それ自体は悪いことではないと思われますか。
発達特性を同定されることで、親御さんが子どもの問題に対して「こういう介入をしたらいいんだ」という前向きな見通しを持つことができたり、あるいは子ども自身が生活しやすくなったりするのであれば、グレーゾーン診断も悪くはないかもしれません。
まず「発達障害ということは何を意味しているのか」ということをきちんと説明することが大事です。そのようなことがなされずに、乱暴に「不治の病です」と言わんばかりに診断がなされ、その後何の介入方法も示されないまま放り投げられるのなら、不幸しか待っていない気がします。
――実際のところ、初診の予約待ちが数多く発生する中で、診断をつけることだけがフォーカスされてしまっています。
さきほどの視力の例でたとえると、緑内障や白内障といった病気に関する評価もされず、ただ視力だけを測って、ひたすら「近視です」と診断する眼科がどんどん増えていったらどうでしょうか。ただ「視力が悪いですよ」とだけ告げられて、その後どうすればいいのか何も教えてもらえないわけです。親御さんによっては、「うちの子、視力障害と言われちゃった。治ることはない障害者なのね」みたいな気分になっている人も多いのではないでしょうか。発達障害と診断されたなら、「その子にどう関わっていくのか?」「どう支援していくのか?」がそもそも大事なはずで、診断はそのためにあるはずです。