初診時は「とりあえず」の診断しかつけられない

――発達障害を診断するのは難しいのでしょうか。

 発達障害かどうかを診断する基準は、「何らかの能力に明らかな限定性がある」か、あるいは「その能力の偏りによって複数の生活の場面で支障がある」の2点となります。いずれの発達障害であったとしても、典型的で偏りが極端な場合であれば、児童精神科医100人が診ればほとんどは同じ診断をすると思います。ただその傾向が「極端」ではなく「多少」になって、非典型的な場合になってくると、かなり診断はばらついてくると思います。

子どものこころ専門医で、愛育クリニック(東京都港区)の小児精神保健科部長を務める小平雅基医師

 知的能力や書字・読字能力などはある程度検査で評価できるので、その点ではわかりやすいように思います。IQに遅れがあるとか、学習障害の検査をして書字や読字の成績に低下があるとか、数字上に表れるような偏りが見られれば、「その能力は限定されている」ことになりますので診断されることになります。ただその場合も、まず心理検査をしないと判断はできないので、初診時に確定できることは多くはないと思います。

 より難しいのは、能力を測るための検査に関して統一的な見解が定まっていない発達障害になります。例えばADHDは、「注意力に偏りがある発達障害」と理解されていますが、実は包括的に注意力を測る検査はないのです。そもそも「注意力とは何か?」というテーマもあるのですが、実際の臨床家は色々な検査の結果や実際の生活の様子などを総合的に判断して診断をしているはずです。自閉スペクトラム症(ASD)に関しても、「ADI-R」とか「ADOS」といった研究を元に開発された検査方法はありますが、実際の臨床場面でそれらを実施しているかというと多分多くの医療機関ではそこまで実施していません。そして、そもそも「自閉スペクトラム傾向が強くなるということは、どんな認知・能力特性の偏りを示すのか?」という問いに明快な回答をできる専門家はあまり多くはないように思います。よって、このあたりの発達障害に関しては、普段の生活状況を聞き取り、どういうことで生活に困難が発生しているのかを、専門家がさまざまな検査と併せて評価・鑑別して診断しているわけです。

 たとえば「落ち着きがない」というのは多動症と診断するポイントになりますが、たとえばお子さんの診察に付き添ってきたお母さんが、「この子は私が言ったことを全然聞かないんです」「言ったことをすぐに忘れてしまいます」「宿題をやるように言っても気が散って全然やりません」と訴えたとします。しかし学校の先生から「学校では特に問題なく過ごせています」といったコメントがあると、複数の場面で生活に支障があるわけではないということになり、診断基準を満たさないわけです。よって学校での様子などを聞いてみないと診断確定とはなりません。

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子どもに能力を超えたタスクが与えられているような状況も