
まず、爆風や熱、放射線などを避けるため、駅の出入口から離れた入り組んだ場所に退避すること。地上から続く階段にいてはほとんど意味がなく、人が押し寄せてきた際には群衆雪崩を引き起こしかねない。とにかく、構内の奥へ奥へと逃げるのが鉄則だ。
また、路線や駅によっても、安全性は異なる。地下鉄を通す場合、地面に大きな溝を掘ってトンネルを埋める「開削工法」と、もぐらのように地下を掘り進んでいく「シールド工法」がある。東京の場合、南北線や副都心線などは主にシールド工法が使われているが、開削工法で作られた路線や駅の場合、地表から十分な深さがなかったり、周囲の地盤がゆるかったりと、ミサイル爆発の衝撃に耐えられないケースも考えられるという。
自宅にいたら浴槽へ
では、田邉氏は自宅にいるときにJアラートが鳴ったら、どこに逃げるのだろう? 気になって尋ねてみると、「まあ、風呂桶の中ですかね」と、驚きの答えが返ってきた。
「だって、限られた時間の中で、避難施設までたどり着けるとは思えませんから。ミサイルは発射後10分以内に日本に到達する可能性があり、Jアラートが鳴るのは発射の4分後くらい。しかも人間の心理を考えると、アラートが鳴っても『本当に避難するべき?』とスマホを開いて情報収集する人がほとんどで、その間に2、3分経ってしまう。アラートが鳴ったら、まずは目に見える範囲内で一番頑丈そうな建物に入り、地下がなければ柱の陰など爆風を防げる場所に隠れてください。私の自宅の場合は、一番外壁から遠く、窓もないお風呂場が現実的な避難先になります」
要するに、地下鉄の駅をはじめとした避難施設に逃げられるのは、たまたま近くにいた人だけということだ。国際情勢が緊迫の一途をたどるなか、私たち日本人の命は、“時の運”という、極めて心もとないものに委ねられている。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)