ジャーナリストの田原総一朗さんは、環境問題で注目される若手学者を紹介する。
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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月20日に、地球温暖化に関する第6次統合報告書を公表した。
朝日新聞によれば、世界は産業革命前からの平均気温の上昇を1.5度に抑えることを目指しているが、今のペースで温室効果ガスを排出し続ければ、各国が提出している温暖化対策目標を達成しても、2.8度に達する可能性が大きい、ということだ。IPCCは警告を続けてきたが、温暖化対策に対して難しい現実がある。
<新型コロナからの回復で景気が復調。ウクライナ侵攻などによるエネルギー危機で欧州を中心に各地で一時的に石炭火力を稼働させる動きがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多になった。米環境NGO「世界資源研究所」は「今後数年間で化石燃料からの抜本的なシフトがなければ、世界は1.5度の目標を吹き飛ばす」と危機感をあらわにする。>(3月21日付朝日新聞)
日本でも2020年に、当時の菅義偉首相がCO2の排出を大きく減少させるカーボンニュートラル構想を打ち上げたが、その具体策はあいまいで、特に原子力発電をどうするかは大きな課題だ。
ところで、現在、環境問題での主張が非常に注目されている若い学者がいる。斎藤幸平氏(東京大学大学院准教授)である。そこで先日、週刊誌の対談で斎藤氏に会って話を聞いた。
20年に著書『人新世の「資本論」』で大きな話題を呼んだ斎藤氏は、マルクスについて研究している。マルクスと言えば、「資本論」が有名だが、斎藤氏は晩年のマルクスの研究に非常に関心を抱いているのである。どんな研究だったのか。斎藤氏によれば、マルクスは森林破壊や資源枯渇といった環境問題に関心を深めていたが、エコロジーと並んでもう一つ、晩年のマルクスが熱心に研究していたテーマが、資本主義以前の西欧、あるいは当時の非西欧社会にまだ存在していた「共同体」についてだという。