イラスト/ウノ・カマキリ

 著書『ゼロからの「資本論」』の中で、斎藤氏は次のようなことを書いている。ゲルマン民族のマルク共同体をはじめとする「原古的」共同体では、土地が共有物として扱われ、人々が「平等」に暮らしていた。共同体では、富が一部の人に偏ったり、奪い合いになったりしないよう、生産規模や個人所有できる財産に強い規制をかけていた。こうすることで、人口や資本、生産や消費の総量が変わらないまま推移する「定常型経済」を実現していた、と。

 繰り返しになるが、マルクスと言えば「資本論」で、「唯物史観」であり、技術革新の進んだ先進国が世界で最も進歩的な地域ということになるのだが、マルクスはロシアや非西欧共同体を研究するなかで、そのような歴史観と決別し、西欧が失った平等や持続可能性を維持している共同体社会の可能性を高く評価するようになった。

「高次の共同体社会を実現するために、無限の経済成長は必要ないとして、『脱成長型経済』を主張するようになったのです」

 斎藤氏は、マルクスが思い描いていた将来社会は「コモンの再生」だと説明し、斎藤氏自身、コモンの再生のために脱成長経済を主張しているのである。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2023年4月7日号

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