思えば、少年隊時代から、私情が引き起こす精神の「ぶれ」を決して許さないだけでなく、「ファンの声援を力に変えて……」的な隙や甘えや馴れ合いを見せず、ファンからすれば「つれない」と感じるぐらい、己をベストコンディションで納品するためだけに心血を注いできた男です。故に「冷酷」とか「人間味がない」といった印象を持たれがちではありましたが、裏を返せば、今回の公演は、まさにショービズにすべてを捧げた男・東山紀之の真骨頂だと言えるでしょう。
故ジャニー氏による加害や疑惑は、時間をかけて解決していかなければならない問題です。一方で、その責務をすべて東山さんが担うのは、たとえ不退転の決意や覚悟があったとしても、彼が適任かどうかはまだまだ未知数であり不透明でもあります。
少なくとも、此度の舞台を観た客のほとんどは「彼は、これからも人前で芸をする人だ」という確信めいたものを感じたはずです。当の本人がどのような気持ちでいるかを計り知る術はありませんが、少年隊の盟友でもある錦織一清さんが言っているように、「ジャニーズの良いところだけを今後は継承していく」ことは、東山さんを含め、すべての旧ジャニーズアイドル・タレント・アーティスト・俳優たちにとって大事な務めではないでしょうか。
「人生を懸けて取り組む」と宣言した補償問題にも、いずれ着地点が見えてくるはずです。まずはそこに集中するというのは彼の意思としても重要だと思います。ただ、そこを経て再び観客の前に、ステージの上に、カメラの前に立つ東山紀之の姿を、私たちは観ることになるだろう。漠然とながらも、そんな想いが劇場全体に漂っていたのは事実です。
ジャニーズ事務所なき後の、エージェント会社の社長就任を辞退したとの報道に際し、メディアは「投げ出した」だの「タレントに出戻り」だのと囃し立てています。悔しいかもしれませんが、これは慰みでも慈しみでもなく「ヒガシは出役になるべくしてこの世にいる人間だ」と、世間が再認識した結果だと思っています。
芸能がこれから先も悪趣味なものであるために。