ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。21回目のテーマは「東山紀之さん」について。
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先日、東山紀之さん主演の舞台「チョコレートドーナツ」を観劇してきました。9月の会見で、「年内をもって表舞台から引退する」と発表していたこともあり、静かな緊張感と昂奮が入り混じる満員の観客を前に、いっさいの動揺も万感も見せず、ただ粛々と演じ切る姿はただただ圧巻でした。
「チョコレートドーナツ」は、1970年代のカリフォルニアを舞台に「母親から捨てられたダウン症の男児を、ゲイのカップルが育てるために裁判を闘う」という物語です。東山さんは主人公のドラァグクイーン役。女装して派手に歌い踊り、相手役の岡本圭人さんとの熱いラブシーンを演じ、劇中では「子供への性的虐待」を疑われるシーンまであります。
もちろん公演が決まった当初は、まさかジャニーズが今のような状況になっているとは誰も想像すらしていませんでした。しかし結果、このタイミングでこのような作品を、しかも自身の俳優人生の「最後の作品」として演じる東山さんの「引きの強さ」たるや、良くも悪くも神がかっています。
舞台に上がる以上、不謹慎だろうと不道徳だろうと、「輝く」ことは舞台人の務めです。疲弊し憔悴した人を観るために切符を買う客などいません。とは言え、さすがに今回は観る側にも様々な想いが過ぎり、ともすれば「輝き」を見出せない恐れすらありました。しかし、これほど難儀なタイミングでも、いやむしろこんな時だからこそ、終始高値で安定した「輝き」を納めるのが東山紀之という男です。
それをまた固唾を呑んでドキドキしながら観ている私たちを含め、改めて芸能というのはそんな矛盾と非情と悪趣味の賜物なのだと痛感した次第です。