賢治が改稿を繰り返したのは、得た知識を多くの人と分かち合おうとしたのだろう。

「世の中が賢治に追いついたというのでしょうか。『銀河鉄道の夜』に登場する、数々の星たちや星座に関する記述は、天文学者の目から見てもかなり正確で、賢治の宇宙に関する知識が当時としては、半端なものではなかったことがわかります。同時に賢治が凄いのは、そうした知識を理解したうえで、文学に昇華させていることですね」

 当初は作品に出てくる天体の解説をしようと考えていたが、書いているうちに賢治の人生に寄り添うような形になったという。短い賢治の人生の中に、宇宙や星々はいつも一緒にあったのだ。

「賢治は人間というものに興味を持っていた人なんだと思います。物語のなかで天体を扱うときにも、宇宙を人間世界に重ねて、独自の表現で書いている。登場する星座や星々がたんなるモチーフに終わらないのは『みんなの幸せ』を考えるという、賢治の宗教観、世界への深い思いがあるからでしょう。とてもまねできません」

 天文学の視点から見る、新しい宮沢賢治の魅力は新鮮だ。渡部さんの案内で、賢治と星をめぐる旅に出かけてみよう。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年11月6日号