渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)/1960年、福島県生まれ。天文学者、理学博士。東京大学、東京大学大学院を経て、東京大学東京天文台に入台。自然科学研究機構国立天文台副台長を経て、現在は、同天文台上席教授。国際天文学連合副会長。日本文藝家協会会員(撮影/工藤隆太郎)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『銀河鉄道の夜』をはじめ、宮沢賢治の残した作品には宇宙や星空に関する記述が多い。賢治はいかにして宇宙への関心を育み、最新の天文学の知識を得たのだろうか。また「みんなのほんとうのさいわいをさがしに行く」という賢治の思想は、詩や童話に描かれた天体にどう反映しているのか──など、天文学者ならではの視点から、賢治の人生と作品を読みなおす一冊『賢治と「星」を見る』。著者である渡部潤一さんに同書にかける思いを聞いた。

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〈旅に出ようと思う。/足を使って、どこかに行く旅ではない。宮沢賢治の残した作品の宇宙や星空に関する記述をたどり、そこから賢治という人物をたどる思索の旅である〉

 印象的な文章から本を始めたのは天文学者の渡部潤一さん(62)だ。国際天文学連合の惑星定義委員として準惑星という新しいカテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えるなど、世界的に活躍しながら天文学の楽しさをわかりやすく伝える本を書いてきた。

 本書では『銀河鉄道の夜』をはじめ、童話や詩、友人への手紙をとりあげながら、天文学を切り口に賢治の作品世界を読み解いていく。

「賢治との出会いは中学生の頃に読んだ『銀河鉄道の夜』です。最初は星座や天文学的知見に惹かれていたんですが、高校生、大学生と年齢があがってから読みなおすと、そのたびに新たな発見があるんですよね。気づくと、自分が壁にぶつかったり塞ぎこんでいるときに読みなおす本になりました」

 賢治は何度も原稿に手を入れたことで知られている。『銀河鉄道の夜』も改稿を経ており、その過程は研究対象にもなってきた。

「繰り返し読むうちに、どんなふうに作品が変わったのか気になって、どう改稿されたのかを読んでいきました。天文ファンに人気のいるか座が途中で消えたのは残念だなと思ったり(笑)。『銀河鉄道の夜』の冒頭に、教室で天の川について説明する描写がありますが、それは最終の第四次稿にしかないんです。私の想像ですが、賢治は当時、最新の宇宙像をどこかで知って、作品に入れたかったんじゃないでしょうか」

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