全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2023年11月6日号には新政酒造 木桶技師 相馬佳暁さんが登場した。
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1852年創業の新政酒造(秋田市)は、2013年から、江戸時代の醸造方法の木桶仕込みに回帰し、すべてを木桶で醸している。
その酒造りに必要不可欠で、個性的な味わいを引き出す要となる木桶職人だ。
元々、国内外の店舗をデザイン・設計する仕事をしていた。趣味で唎酒(ききさけ)師の資格を取り、日本酒のバーを経営するほどの日本酒好きだ。
17年に新政の社長と出会い、「木を扱う醸造方法は難しくて、イメージ通りにいかない。手伝ってほしい」と、相談された。
ちょうど海外での長期の仕事を終えたばかりで、日本独自の文化に貢献できることがないか探していた時だった。日本酒造りを学びたいという思いもあり、引き受けた。
当初は半年間のつもりだった。しかし、発酵のメカニズムに魅了された。社長の目指す酒の味は、共通の目標となり、課題を一つずつ解決していった。
まずは麹室の設計。新政が目指す「全量蓋麹(ふたこうじ)」の麹室は複雑で、全国でも設計できる人はいなかったが、猛勉強し、品質を向上させた。次に酒母室も改良し、適正な醸造空間をつくることに成功した。