宮田利男の愛弟子・伊藤匠七段は藤井聡太竜王に挑戦中だ。師匠は弟子にこう言った。「竜王戦、自分の好きなようにやってね。大丈夫。自分の思った通りに。頼んだよ」(撮影/横関一浩)

将棋を教えてたら、そっと私の後ろに回って、私の尻を叩いてくる子とかいますからね(笑)。『なんだこら!』って言うと『しらない』ってぴゅーんと逃げていく。私は子どもをかまってるのが好きなんですよ。いまも幼稚園の子が通ってきてますけど、昔たっくん……伊藤をかまってたのと同じでね。うちの女房に言わせると『あんた、これ(将棋クラブ)やめたら死ぬわよ』ってね(笑)」

 宮田自身は将来を嘱望されながらも、現役中、タイトル獲得などはできなかった。

「『遊びごとを教えてくれた人と知り合わなかったら、もっと活躍してたんじゃないか』と言われると、どうかな。自分の人生は何回繰り返しても、同じことしてる気がするんですよ(笑)。そうやって生きてたんだから、まあいいんじゃないかな。でも『お前らは活躍してくれよな』って思うから、弟子には『25歳まで酒とギャンブルは絶対ダメだ』って言うんです」

 伊藤が竜王挑戦を決めたあと、多くのファンを集めて激励会が開かれた。師匠の宮田をよく知る遠藤龍之介(元フジテレビ社長)は挨拶に立ち、その功績を大きく称えた。

「昭和の名伯楽は高柳敏夫先生でしたけど、令和の名伯楽・宮田利男先生にもう一度大きな拍手を」

(構成/ライター・松本博文)

AERA 2023年10月30日号

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