1970年代から東京・浅草に通い、下町に拠る普通の人々の肖像を撮り続けた写真集『PERSONA』(2003年、土門拳賞)ほかで国内外に評価が高い著者のエッセイ。雑誌連載の36編を収めるが、見事な筆遣いだ。
月山の麓で生まれ育ち、長じて写真家を志す。以来、何を、なぜ、どう撮ってきたか。資金稼ぎの職業遍歴、インド往還、そして浅草……。原風景に重なる懐かしさを誘う人、風物との出会いを求めて今に至った軌跡を本書に知る。いずれも短編小説の趣だ。
表題作は台湾、路地奥の飯屋が舞台である。阿吽の呼吸で働く主人、妻、舅姑。隅で教科書を広げる幼い娘。著者の体内記憶装置は、各場面を絶妙のアングルでとらえる。言葉化されたその連続はやがて物語性を帯びてくる。蘇る、かつて日本にもあった家族労働の様。
巻末の書き下ろし「[番外篇]一番多く写真を撮らせてもらったひと」は哀切。『PERSONA』の主役さくらさんの行き倒れに近い死を悼む。居場所の路傍に献花の山が出来たという。
※週刊朝日 2015年6月26日号