金沢大学/金沢市の近江町市場を訪ねる観光デザイン学類の学生たち。この日は広報動画を学ぶワークショップが行われた(写真:金沢大学提供)

 土地の特性を生かし、地域の活力源にもなっている地方の国公立大学が注目を集めている。どんな取り組みが学生から支持されているのか。AERA 2023年10月23日号より。

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 金沢大学の観光デザイン学類2年の小川琴音さん(20)はこの夏、金沢市内のホテルでインターンをした。インバウンド(訪日外国人客)が多く、世界各地で仕事をするノマドワーカーも積極的に受け入れているホテルだったため、英語を駆使してチェックイン業務をしたり、金沢のおすすめスポットを紹介したり。

「宿泊客はもちろん、働く人たちの声を直接聞くことができ、充実していました」

 と振り返る。

 小川さんは、愛知県瀬戸市出身だ。県外で学びたいと考え、興味のある観光分野に関する学部がある大学を探したら、首都圏の私大に加えて、金沢大が2022年春に観光デザイン学類を新設することがわかったという。

「新しい学部で、自分たちで自由に作っていけそうだったことと、観光都市の金沢で観光を学ぶからこそ得られるものは多いはずだと思い、進学を決めました。実際その通りで、満足度は高いです」(小川さん)

日々の暮らし=学び

 同級生の中條栞さん(20)も、「金沢大を選んでよかった」と話すひとりだ。

 金沢市で生まれ育ち、小学6年生だった15年に北陸新幹線が開通。兼六園や金沢21世紀美術館に、それまでとは桁違いの観光客が押し寄せ、地元住民の暮らしが圧迫される「オーバーツーリズム」問題を体感してきたという。中條さんは、

「地元住民と共存する『持続可能な観光』に興味があり、これからもっと勉強したいです。少人数で先生との距離が近い地方大だからこそ、落ち着いて学ぶことができています」

 日々の暮らしがそのまま学びになる──。

 それはそのまま、授業の充実につながっている。九谷焼の産地として知られる能美市と連携し、同市の観光資源を学びながら新たな観光企画を提案したり、クルーズ船や飛行機、新幹線など、金沢への交通ルートごとに観光客の傾向を分析し、観光戦略を立てたり。観光デザイン学類長の佐無田光(さむたひかる)教授は、

「観光業界にただ就職するだけではなく、国内外の観光産業の中で新しいイノベーションを起こせる人材を育てたい」

 と話す。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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