藤井八冠は成長過程

 藤井聡太は2020年に17歳でタイトル戦に初登場。今回の王座戦が18回目のタイトル戦だったが、1回も負けずに八大タイトルを独占してしまった。14歳で棋士デビューしてわずか7年。成長速度は群を抜く。羽生でも七冠達成に10年かかった。

 デビュー以来、藤井は8割以上の勝率を毎年挙げている。22年度ですでに6回目。羽生でさえ、8割以上の勝率を挙げた年は3回しかない。

 とはいえ、常に快勝できるわけではない。苦戦に陥っても粘りながら逆転のシナリオを書く能力も重要だ。今回の王座戦で藤井が逆転勝ちした将棋は多かった。第一人者は将棋が強いだけではなく、勝負にも強い。

 また、どの時代でも全冠独占には体力や気力も必要になる。一年中、タイトル戦で全国各地を回って勝ち続けなければならないからだ。

 25歳で七冠を達成した羽生は「七冠獲りというのは体力との戦いともいえます。一年に何回か疲れがドッと出る時をどう乗り越えていくかが大きな試練」と書いている。その点、藤井の若さは頼もしい。移動を楽しみにできる乗り鉄であることも精神的に大きい。

 八冠独占は歴史的偉業だが、藤井のゴールではない。あくまで実力向上に努めてきた一つの通過点だ。21歳は今後も棋力が伸びる年齢だし、経験などを含めた総合力の観点でも伸びしろがある。恐るべきことに八冠王の藤井は将棋界の頂点を極めながら、成長の過程にあるのだ。(ライター・君島俊介)

AERA 2023年10月23日号より抜粋

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