籠橋隆明弁護士(本人提供)

裁判で、社会に議論を巻き起こす

 アマミノクロウサギ訴訟は、違法な行政行為から個人の利益を守るための「行政訴訟」で提訴した結果、「自然は誰のものでもないから、個人の利益は認められない」と却下されました。それを踏まえ、今回のカンムリワシ訴訟は、自治体の違法な財政支出や財産管理などを正すための「住民訴訟」の形をとっています。住民訴訟は住民であれば誰でも起こせるため、原告からカンムリワシが外されることはあっても、請求自体が却下されることはありません。

――現行の法制度では認められないとしても、あえてカンムリワシを原告に加えたのはなぜですか?

 この裁判の意義を象徴しているからです。自然の権利訴訟が問いかけるテーマは、「人間に自然を代弁する権限があるか」。私たちは、誰かが権利を代弁しなければ守れない自然はたくさんあり、どんなに環境破壊が進んでも止める手だてがない社会に未来はない、と考えています。

 裁判は単に結論を求める手続きではなく、プロセスの中で原告が主張を表現し、世にアピールできる側面があります。歴史的に見ても、社会に議論を巻き起こすことは、裁判の機能の一つと言えるでしょう。今回のカンムリワシ訴訟を、ただの奇想天外な裁判で終わらせるのではなく、人と自然の関わり方について深く考えるための突破口にしたいと思っています。

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ワシと人、どちらが大事?