本書は歌手、アイドル、映画監督など、多彩な分野で活躍する人物を描いたノンフィクション短篇集だ。
 氷川きよし、泉ピン子、北野武、山田太一、三遊亭円楽ら、いずれも有名人だが、マスメディア越しでは伝わらない別の顔がルポから浮かび上がる。例えばジブリ映画の音楽で知られる久石譲。「国民的作曲家」の呼び声も高い彼だが、作曲の原点は難解な現代音楽。ニューヨーク同時多発テロ以降、社会への危機感をミニマル音楽やクラシックと結びつけた曲制作を手がけているという。「脱原発」の俳優として知られる山本太郎の章では、東日本大震災以前はサーフィンに夢中だった彼が反原発デモへの参加を決め、SNSで誹謗中傷を受けたり、事務所を辞めるなど、激動に巻き込まれる過程がつぶさに描かれる。
 今村昌平ら何人かは既に亡くなっている。初出は「AERA」などの雑誌のため、時間とともに忘れ去られてしまいがちだ。本としてまとまることで、彼らの「声」が歴史としてよりはっきりと刻まれた。

週刊朝日 2015年6月12日号