「寿都で今もめている問題の根源は将来の財源をどう確保するのかということ。ふるさと納税による寄付金はまだまだ伸ばせる。そうした点を具体的に訴えたのが功を奏した」
もう1人、初当選した元町教育長の早瀬良樹さん(72)は、最終処分場の建設にも賛成している。「新しい産業を起こすためにも処分場は必要だ」と語る。
対馬市長が調査の受け入れを拒否したことについても、「それぞれの地域の判断。寿都は勉強を重ねてきている。向こうと違う判断が出ることもある」と冷静に受け止める。
早瀬さんも「町議選では教育や福祉を中心に訴えていく」と核ごみの問題は前面には出さなかった。
町議選に出た12人のうち、落選した3人はいずれも反対派。処分場の問題を中心に訴えていた。
当初2年といわれた文献調査は予想以上に長引いている。人口約2700人の小さな町はそろそろ「静かな分断」と向き合うのに疲れているのかもしれない。
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場をめぐる選定プロセスには文献調査や概要調査などがある。寿都町で賛成派といわれている人たちに話を聞くと、調査には賛成でも「最終処分場をつくるのには反対だ」という町民も少なくない。
早瀬さんのように「処分場まで」と考えているのは実は少数派だ。そもそも議論の目的と手段がねじれていたからだ。
対馬市の比田勝市長は文献調査を拒否した理由を「まだ市民の合意形成が十分ではない」と語った。
これに対し、寿都町ではトップダウンで調査の受け入れが決まった。
片岡町長はかつてこう言っていた。「大上段で核のごみを受け入れますなんて、これっぽっちも思っていません」。2020年8月、非公開で行われた町議会の全員協議会で力説した。
「やめようってなったら、やめればいい。文献調査やりますといっただけで20億円、概要調査をやったら70億円。これってやはり魅力ですよ」
(朝日新聞編集委員・堀篭俊材)
※AERA 2023年10月16日号より抜粋