寿都町議選は定数9に対し12人が立候補する激戦となった。人口減少が進む町では人のまばらな通りを選挙カーが行き交う光景がみられた(撮影/堀篭俊材)
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「核のごみ」最終処分場をめぐり自治体が揺れている。長崎県対馬市は調査の受け入れを拒み、全国初の調査が続く北海道寿都町であった町議選は町を二分して争われた。AERA 2023年10月16日号より。

【図】「核のごみ」最終処分地選定の流れがこちら

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 山から吹きおろす「だし風」で知られる北海道南西部の寿都町。町議選が告示された9月28日、候補者たちの第一声が小さな町に響きわたった。

「対馬市長は賢明な判断をした。片岡町長はどうお考えでしょうか」

 初日の街頭演説で、元職の越前谷由樹さん(71)は訴えた。前日の9月27日には、対馬市の比田勝尚喜市長が最終処分場選定に向けた文献調査の受け入れを拒否していた。

 道行く人に向けて、3年前に全国で初めて調査に応募した片岡春雄町長(74)の姿勢を問いただした。

「分断された町民の心が落ち着くように解きほぐす必要がある」

 正面からぶつかる訳ではない。でも互いに会うのを避けようとする。そんな「静かな分断」が町を覆う。

 処分場に反対する元郵便局員の神貢一さん(69)は「地域みんなが互いに気心が知れている。そんな寿都のよさが町長のせいですっかりなくなってしまった。今回の選挙で分断がより深まるのでは」と気がかりだ。

 定数9に対し12人が立候補した町議選は激戦となった。10月3日の投開票で処分場をめぐる調査に賛成する5人が当選し、反対派の4人を上回った。一方、トップ当選は反対派の越前谷さん。最下位当選と次点との票差はわずか6票だった。

 新顔で当選を果たした2人は対照的だ。その1人、町役場出身の大串伸吾さん(39)は新潟県出身。地縁血縁とは無縁だ。

 北海道大大学院生のとき、論文の調査で町を初めて訪れた。漁業を再興しようと2017年、町役場に入った。漁場を潰しかねない処分場誘致に反対して、町役場を4年で去った。

 だが、自身が当選した理由について「核のごみ問題よりも、まちづくりについて訴えたのが支持された」と分析する。

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