AERA 2023年10月9日号より

「質のいい睡眠を取るためには、体温を下げることが一つのポイントです。深部体温という体の内部の熱を外側に逃がす(放熱する)ことで代謝率を下げ、細胞活動を沈静させることも睡眠の目的の一つだからです。筋肉量が多いと、熱を産生して体温を上げる能力が高い分、放熱して体温を低下させる能力も高い。筋肉量が多ければ多いほど睡眠の質を上げることができます」

 また筋肉を再生する成長ホルモンは睡眠の中で分泌されるので、良い睡眠の結果、筋肉も付いていくのだと言う。

「眠れれば体温がしっかり下がる。しっかり下がれば起床後にまたしっかり上がり、『運動しよう』というモチベーションも湧きやすく、好循環が生まれます」

 昨今は「腸活」も推奨され、胃腸の虚弱化を指す「ガットフレイル」という言葉も注目されている。この腸と睡眠も、密接な関係にある。

 たとえば腸内環境が整っているグループとそうでないグループに分け、就寝前に刺激的な映像を見てもらった場合、眠りの質に差が出てくるという調査結果もあると言う。

「腸内環境が整っていないグループは、刺激によって動揺など影響が見られるのですが、整っているグループは、たとえば心拍数が上昇してしまうなどの反応があまり起こらなかった。つまり外部環境に対して生理的なリズムが乱され、睡眠の質が悪化する弊害が、腸内環境が整っていれば起こりにくいんです」

 では、心の衰えと睡眠との関係はどうか。フレイルには身体的な側面だけでなく、認知機能や意欲・判断力が低下する「精神的側面」と、社会交流の減少による孤立・孤独など「社会的側面」もある。その二つと「うまく眠れているか」も、深く関わっている。

「日中に高ぶった交感神経を、夜に急に切り替えて眠れと言われても難しい。神経には、交感神経を抑制する『腹側迷走神経』という副交感神経の活動があります。これは他人と何か感情を共有したり、社会的な自分の価値を感じることができていたりするときにはうまく働き、交感神経が抑えられるんです」

 つまり、コロナ禍などで「社会的なつながり」が失われるケースが増え、他人とのやりとりが行われにくくなることで、感情を高ぶらせたまま夜を迎える。それが「眠れない」という自覚につながってしまう背景があると、菅原さんは指摘する。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年10月9日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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