障害者施設で一個一個手作りされたお灸と聞くだけでジーンと効果を感じる今日この頃(写真:本人提供)

「ピリッと熱さを感じたら直ちに外して下さい」とあったので、「ピリッ」が火傷の合図なのであろう。緊張して待ち構えるうちに、モグサの火が広がり煙がもうもうと出て皮膚が着実に熱くなってくる。いやいやいや! 十分熱いんですが! でも「ピリッ」とまでは言えないような言えるような……と躊躇しているうちにモグサが燃え切ったらしく、ピークを過ぎて徐々に冷めていく。ああ助かった! だがお灸を外すと赤い痕が……火傷? と思ったが火膨れも痛みもないのでセーフ? それともアウト? 翌日には何の痕跡もなかったのでセーフだったのでした。

 以来、夜寝る前にお灸を据えるのが習慣というか最大の楽しみとなった。効果のほどはまだわからぬが、それより何より「ピリッ」という瞬間が来るのか来ないのか、毎度じっと待ち構えている緊張感が最高である。

 ひたすら皮膚の感覚に集中していると、スマホを見たり心配事に頭を巡らせる余裕もなく、気づけば頭はカラッポ、体のコリも忘却の彼方。数分間のセルフリゾート。この時間を得たことだけで胃もリラックスするのでは……っていうかお灸ってもしやそういうこと?(←違う)

AERA 2023年10月9日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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