この夏もニューヨーク州北部の湖畔で子どもたちが集まる「シアター・キャンプ」が始まった。だがスクールは存続の危機で、キャンプ終了までに傑作ミュージカルを完成させなければならない。変わり者だらけの教師と子どもたちの運命は!? サンダンス映画祭を熱狂させたハッピーコメディー「シアター・キャンプ」。脚本と製作も務めたニック・リーバーマン監督に見どころを聞いた。
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本作は私と、共同監督で脚本・出演のモリー・ゴードン、脚本・製作・出演のベン・プラットとノア・ガルヴィンの友情から生まれました。ベンとモリーに出会ったのは13、14歳ごろでしょうか。私たちはみなシアター・キャンプにルーツを持ち、いまも一緒にコメディーを作っています。そこがいかに奇妙でおもしろく、我々の心の拠り所であったかを描きたいと思いました。
シアター・キャンプに集まる人々は実に個性的です。まさに多様性の鑑です。ただ私たちの子ども時代はいまよりもっと「人と違うこと」が怖い時代でした。そんななかで素晴らしい先生たちが、時には常軌を逸した強烈なやり方で、「誰もがすべて大切な存在なのだ」と、自分を信頼することの重要さを示してくれた。居場所のない子どもたちにとって演劇は特別で安全な場所なのです。それに私は映画のキャンプで子どもたちを教えたことがあります。彼らが想像力豊かに何かを成し遂げるのを見るのは驚きであり、嬉しいことです。子どもたちにとってさまざまなことに挑戦できる場所があることはとても大切なことです。
映画はモキュメンタリーの手法を取り、俳優が話す言葉はその場で作られたものが大半です。「カット!」の声がかかるたびにみんなが笑い出し、そこになにか良いものがあると予感できました。
が、映画同様に現実世界でもシアター・キャンプのような活動は常に脅かされています。コロナ禍はライブ・パフォーマンスを中心とする人々にとって脅威となりました。パフォーマンスを観に行く習慣を取り戻すことは、とても難しいことだと感じています。だからこそこの映画は人々が集まってライブで何かを経験することへのラブレターと言えるでしょう。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年10月9日号